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プラハで生まれたドイツの詩人リルケが六年の時間をかけてつづった散文詩。
パリの裏町のアパートに住む青年マルテは、死と孤独と貧しさを見つめて暮らしている。 幼い頃の思い出にレースの世界が・・・。 マルテが見たのはこんなレースだったのでは? MI.YA.COのMiyakoが独断にて当てはめたものですので 見解の相違もお楽しみください。 ―リルケ著「マルテの手記」より― 僕はママンが小さなレースのきれを一つ一つ拡げる時にどうしていたか、よく覚えている。 彼女はいつもインゲボルグの書きものの机の引出しの一つを、レースをしまうために使っていた。 「ちょとね、来てみない、マルテ」と言って、小さな黄色のニスを塗った引き出しにしまったレースを、 ママンはたった今誰かにもらったばかりのような顔をして喜んでいた。 心が期待に震えて、自分の手ではよしの紙のたとうをあけることができなかった。 いつも僕がそれを開く役目だった。しかし、レースが見えだすと、僕も同じような興奮にかられるのだ。 レースは木の巻軸にまいてあったが、木の部分はレースに隠れてちっとも見えない。 僕たちはそれをできるだけゆっくりほどいた。拡げられるままにレースの模様をじっと見ていたが、 一つがおしまいになると、いつもちょっとはっとびっくりした。 何か出しぬけな感じで、突然ぽつんと切れてしまうからだ。 最初に手にとったのはイタリアの式の縁飾りのレースだった。 なかなか丈夫そうな、糸を抜きとって加工したレースで、飾り模様は同じものが どこまでも繰返して続いている。そのはっきりした模様がちょうど農家の庭か何かのように見えた。 ![]() すると次には、僕たちの目は思いがけなくベネチアふうの網目細工のレースに眼界をふさがれてしまった。 自分が修道院が牢獄になったような奇態な感じがした。 ![]() しかし、やがてまた眼界が打ち開けると、広い庭を見渡しているような気持ちだった。 なんとなく人工的な感じがして、あたかも温室の中にいるかのような、目がなま暖かく押えられるような 予感がした。 生れて初めて見る美しい植物が、大きな葉を広げていたり、蔓が目まいでも起こしそうに、 互いにからみあっていたり、ぱっと開いたポアン・ダランソンの花があたりに花粉を散らしていたりした。 ![]() 僕たちは突然また、ヴァランシエンヌの長い道路に出た。 僕は頭が疲れて、ぼんやりしてしまった。 ![]() ![]() まるで雪でも降ったようなバンシュの灌木林をかき分けて行くと、誰もまだ通った跡のない広場にでた。 僕たちは突然また、ヴァランシエンヌの長い道路に出た。 僕は頭が疲れて、ぼんやりしてしまった。 小さな、非常に細かな手編みのレースが出て来た時、ママンは 「あら、とうとう、睫毛に氷がくっついたみたいだわ」と言った。 そう言われると、僕はいかにも睫毛に氷ができた時のような気持ちがしだした。 そして、本当に寒い冬の大気の中を歩いているように、体がほかほか暖かくなって来るのだった。 再びまたレースを元どおりに巻きつけるのが一苦労だった。僕たちは溜息をついた。 ひどく手間のかかるうるさい仕事だったけれども、やはり他人には任せたくはなかった。 「これをもし自分でこしらえるとしたら、どうでしょう」とママンは言って、 ひどく苦労な顔つきをして見せた。 僕はほとんどこれが自分の手でできようとは考えられなかった。 ![]() ![]() 僕は何か小さな虫がいて、それがレースを作るのだ、人々は蚕のようにそんな虫を飼っておくのだ、 など勝手に空想していたが、そんなことがあり得ないことを知っていた。 むろん、女の人がレースを作るに違いない。「こんなレースを作った人は、もうきっと美しい天国へ 行ってるんでしょうね」と、僕は驚嘆の声を放った。 その時、僕はもうずいぶん長い間天国などという言葉を使ったことがないのをふと思い出した。 ママンはほっと息をした。レースはやっと元どおりに巻かれていた。 それからしばらくして僕が忘れかけたころに、ママンが低い声で返事をした。 「そうね、きっと天国へ行っていると思うわ。こうしてレースを広げて見ていると、 これもやはり清らかな幸福に違いないという気持ちがするのだから。 わたしたちにはどうもよくわからないけれどね、その辺のむずかしい事情なんかは―」 以上はマルテの手記よりの抜粋です。 レースの世界を楽しんでいただけたでしょうか?? ▲
by lacemiyaco
| 2009-04-29 12:34
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